生産技術者としてスキルアップするための資格

生産技術という職業は、業務内容が多岐にわたっている。業界や企業により異なる部分もあるだろうが、大抵の場合、工程設計、設備設計製作、現場の改善活動、新機種のVEや海外工場の立ち上げなど盛り沢山だ。

このため、生産技術者としてのスキルアップにはとても長い期間がかかるし、特定の生産設備を扱う業務の場合はOJTでしかスキルを身に付けることができない。しかし生産技術職全体に共通するスキル要素であれば、【資格試験】を活用することで短期間で身に付けることができると思う。短期間といっても数年がかりだが…。

これまで筆者が取得してきた資格を中心に説明していこう。

目次

①ITスキル⇒IPA情報処理技術者試験
②電気設計スキル⇒電気主任技術者
③機械設計スキル⇒機械設計技術者試験
④生産管理スキル⇒ビジネスキャリア検定 生産管理
⑤戦略立案スキル⇒中小企業診断士(二次試験)
⑥その他の生産技術者資格(CPE:生産技術者マネジメント資格、CMfg国際認定生産技術者)
⑦まとめ

 

①ITスキル⇒IPA情報処理技術者試験

近年、生産現場ではIoTにより設備や作業者の情報を連携し、生産性の分析や向上につなげる取り組みが進んでいる。また、CAD、CAM、生産管理などには従来からITシステムが用いられている。よって、ITスキルは生産技術者に必須だ。筆者の場合、IPAの資格試験のうち、一番難易度の低いものから順に受験してきた。

 

ITパスポート:

ITを利活用するすべての社会人が身に付けておくべき基礎知識の試験だ。しかしIPAの試験全体に言えることとして広く浅く問われるため、電気情報系学科出身の筆者でも、それなりの勉強が必要だった記憶がある。

 

基本情報技術者試験

名前の通り、情報系技術者として基本的な知識や技能が問われる試験。プログラミングが苦手な人には結構難関らしい。

 

応用情報技術者試験

基本情報技術者の上位に位置する試験であり、出題分野は基本~と変わりないが、それぞれをより深く問われる。記述式の問題があるので、まぐれ合格は期待しにくい。この辺までスキル到達すれば、生産技術者としてITシステムの仕様を決めたり、設備とITシステムの連携方式を検討するくらいのことはできると思われる。

 

エンベデッドシステムスペシャリスト:

高度情報処理技術者試験の一つで、ハードとソフトを両方含む組込みシステム技術者のための資格だ。受験対象者は、家電、自動車やロボットなどの組込みシステム開発者がメインだと思う。生産技術者は家電などの製品自体の開発者ではないが、この資格試験により製品の仕組みを理解することができるし、生産設備も一種の組込みシステムととらえることができる。本記事執筆段階では、筆者はこの資格を勉強中で未取得。

 

②電気設計スキル⇒電気主任技術者

生産技術の実務で、特に汎用的なスキルは、電気設計と機械設計だ。生産設備は電気と機械で動いている。このうち電気設計について、ポピュラーな資格は電気主任技術者電験)だろう。この資格には電気設備管理の独占業務があるので、業務上必須な方もいるかもしれない。大きな工場の電気設備管理には、第二種電気主任技術者が必須だ。これに対して生産設備(=二次側)の電気設計には特定の必須資格はない。しかし、やはり電験三種くらいの知識を持って設計しないと、安全な設備を設計することができないだろう。

 

③機械設計スキル⇒機械設計技術者試験

機械設計は奥が深い。もともと電気系の筆者は、あまり機械設計に深入りするつもりはないが、機械設計者と会話ができるレベルになるため、この資格試験の勉強をした。機械系の大卒レベルとされる3級には受験資格はなく、だれでも受験可能だ。2級以上には実務経験が受験資格として求められる。

 

④生産管理スキル⇒ビジネスキャリア検定 生産管理

この検定試験は、厚生労働省が定める職業能力評価基準に則り、ホワイトカラー職種全般のレベル判定をするもの。このうち、生産管理分野には、BASIC級と1~3級があり、2・3級は生産管理プランニングと生産管理オペレーションで資格が分かれている。この資格では「生産管理」と表現されているが、学ぶ内容は生産技術者の知っておくべき管理技術が主体となっている。

プランニングでは生産システムや生産計画、オペレーションでは作業管理、設備管理、原価管理などが問われる。2級はプランニング、オペレーションの中でもさらに細かく区分がある。2級までは公式テキストに沿って勉強し、無料で公開されている過去問を解けば実力を上げることは可能だ。1級は該当テキストがなく、生産戦略を問われる試験になっており、過去問公開もない。2級まではおススメできる資格だが、1級は筆者にとっても未知数だ。

この資格の欠点は、オペレーションとプランニングの出題分野が若干かぶっていること。しかし生産技術者に必要な知識を網羅するためには両方必要だ。

上述の通り、この資格はホワイトカラー職種全体のスキル標準化を意図しているので、生産技術という職種に特化しておらず、生産管理者、開発技術者、購買担当者などあらゆる工場内の職種が受験できるように設計されている。

 

⑤戦略立案スキル⇒中小企業診断士(二次試験)

これまで見てきた資格は、いずれも各特定分野における知識や問題解決能力を測るものだった。ここで壁にぶち当たる。具体的に与えられた択一問題に答えるだけの試験勉強では実戦に不十分であり、自社の課題発見能力や、複数分野にまたがる複雑な問題を分析する能力に欠けるのだ。

この能力を身に付けるためにお勧めするのが、中小企業診断士の二次試験だ。診断士も、一次試験は分野こそ広いものの、択一式の知識試験だ。診断士独特なのは二次試験のほうで、事例Ⅰ:組織人事、事例Ⅱ:マーケティング・流通、事例Ⅲ:生産・技術、事例Ⅳ:財務・会計の4科目につき、実在企業をもとにした事例問題が出される。いずれの事例でもSWOT分析などにより企業の現状を分析してから、戦略立案する流れで出題される。

生産技術者にとっては、事例Ⅱ以外はすべて、実務に直結する内容だ。事例Ⅲは生産・技術そのものの科目であり、例年事例企業の生産管理方法について問われる。事例Ⅳでは生産技術者に必須な設備投資採算計算がよく問われる。事例Ⅰは組織人事だが、この内容は企業システムの根幹にあたるため、他の全事例と関係が密接だ。

筆者は令和元年に初挑戦し、不合格だった。試験時期に仕事がめちゃくちゃ忙しく、一日1時間も勉強時間が取れなかったせいもあるが、資格試験に落ちたのは人生で初めてだった。とても難易度の高い試験だ。ちなみに事例ⅠとⅢは合格点(A評価)、事例ⅡとⅣが不合格点で足を引っ張っていた。事例Ⅳで高得点が取れるようになるには、会計士試験用の問題集をやり込むことが必要らしい…。

なお、生産戦略立案に関しては、ビジネスキャリア検定生産管理1級でも出てくるが、先述の通り1級は教科書も過去問もなく、勉強や試験対策のしようがない。これに対して中小企業診断士は割とポピュラーなため、過去問、教科書、試験対策が広く流通している。ただし巷のブログに蔓延る素人による解答解説には、理論の極端な単純化が見られるため、注意が必要だ。

 

⑥その他の生産技術者資格

これまでは生産技術に「関連する」資格だったが、生産技術者そのものの認定資格も一応ある。生産技術者マネジメント資格(CPE)や国際認定生産技術者(CMfg-T、CMfg-E)だ。ただし筆者は周りでこれらの資格を持っている人を見たことはない。今のところ日本ではマイナーな資格だ。

 

生産技術者マネジメント資格(CPE):

CPE日本能率協会による資格制度で、その内容はビジネスキャリア検定生産管理に類似していると筆者は考えている。どちらも生産管理に関してはJISの用語定義がベースになっているからだろう。CPEは過去問が公開されておらず、教科書も受験料も高かったので筆者は受験しなかった。教科書は1セット35,000円、受験料は15,000円だ。これに対し、ビジネスキャリア検定の場合、過去問無料公開、教科書は自身の職種に関連するものをチョイスすれば5,000円~6,000円程度、受験料は1科目5,000円×2=10,000円といったところだ。個人受験者としては、コスパの差が気になる。

ただし日本能率協会IE系のコンサルティングでは有名どころだし、社員教育の一環として企業負担で受験するなら、受験料が多少高いくらい、デメリットにならないのかもしれない。

 

国際認定生産技術者(CMfg-T、CMfg-E):

アメリカの生産技術者協会(SME)が行う試験だが、日本では極めてマイナーだと思う。メリットがあるのはアメリカで生産技術職を得たい人くらいか?

 

⑦まとめ

この記事では、生産技術者としてスキルアップするための資格を紹介した。①から⑤の資格をすべて取得しようと思ったら、それだけで5年~10年かかるだろう。よって、各自の業務での重要度に応じて、優先順位付けが必要だ。

筆者の周りには、どのような資格が業務に役立つのか教えてくれる人がいなかったので、筆者はこれらの資格の存在を調査するところから始めてきた。スキルアップの仕方に悩む生産技術者の方は、ぜひこの記事を参考にして、効率よくスキルアップを図ってほしい。